「里山保全活動におけるパートナーシップ −遊林会の活動−」
遊林会事務局 丸橋 裕一

■はじまりは5人だった

 1998年6月の第2土曜日は、あいにくの雨降りでした。この日、市民ボランティア「遊林会」は、はじめての里山保全活動を行うため、滋賀県八日市市建部北町にある愛知川河辺林に集まりました。
集まった人数は、わずか5人。そのうち2人は市役所職員で、あとの3名はその知り合いという、いわば身内だけの集まりでした。

■里山保全活動の契機

 八日市市は、琵琶湖の東岸の平野部に位置する人口約4万5千人のまちで、市域の5割弱が田畑に占められている田園地帯です。
 高層ビルが建ち並ぶ大都会で、わずかに残された里山を保全しようとするならまだしも、八日市市のようなまちで、人々の里山に対する関心がどれほどのものなのかということは、当時全くの未知数でした。
それでも、市内で残り少なくなった里山を守ろうとする気運が高まった背景には、

  1. 名神高速道路の開通と前後して市内の平地林が工場用地等に変わっていく中で、、建部北町の愛知川河辺林が市内で最も大規模に残された平地林(約15ha)であったこと
  2. 建部北町の河辺林の周辺では、既に砂利採取等の開発が始まっており、放置すればこの河辺林も消滅するおそれがあったこと
  3. 地下を流れる伏流水の影響や、かつて水害防備林として機能してきたこと等により、本来の標高よりも高いところに生息する動植物が生息し、以前より研究者等に着目されていたこと

 という、3つの理由がありました。
 このため、八日市市で自然保護・公園管理業務を所管する花と緑の推進室が主導する形で、行政と市民が一緒になって、この河辺林を「河辺いきものの森」として保全していこうという方向が定まったのです。

愛知川河辺林「河辺いきものの森」全景

■やりたい人だけ集まろう

 折しも当時、全国的に里山への関心が高くなっており、市民ボランティアによる里山保全活動が盛んになってきていた時期でした。しかしながら、八日市市での試みは、時節に呼応した安易な市民活動、すなわち、人を動員してとりあえず活動の形を表面的に整えるというようなものではなかったと、私は考えています。
 第1回目の活動に際しては、事前に市立図書館で里山保全に関する講演会を行い、市民に活動を呼びかけました。この講演会には、約30名もの市民が集まり、早くも関心の高さをあらわしていました。
 けれども、第1回目の活動に集まったのはわずかに5人だったのです。地元の自治会に依頼して人を動員したり、市職員を何人か割り当てたりしなかった結果が、この5人という数字でした。当然5人では、数十年間管理が放棄された里山に手を入れ続けていくことは、困難を極めます。「遊林会」と名付けられた市民ボランティア活動は、これで潰えるのか、とも思われました。
 次の作業予定日が近づいてきましたが、市の担当者は、人員を動員することはかたくなに拒否しました。なぜなら、里山保全のように長い目で続けていく必要のある活動には、本当に来たくて来る人が参加しないと、実質的な意味がないと考えていたからです。そうしたなかで担当者が、前述した活動開始の3つの理由に、もう1つ新しい視点を加えたことによって、ある変化が訪れました。
 それは、里山保全活動そのものを、参加者の「やりがい」の創出や、自己実現の場としてアピールしたことです。このため、市が行う生涯カレッジなどを通じて、自然を守ること以外にも、自然の中で汗を流すことの楽しさや、「遊林会」という名称が示すごとく、とにかく森に入って楽しもうということを訴えかけました(こうしたレクリエーション的視点は都市部での活動では珍しくありませんが、八日市市のような規模のまちでは、里山保全がレクリエーションになるという見方は一笑されるものと思われていました)。
 そして迎えた第2回目の活動日は、8月の第2土曜日。真夏の盛りで、気持ちよく汗を流そうなどとは思わないような暑さです。しかし、今回はなんと20名もの人が集まったのです。そしてみんな、はつらつと木を伐り、草を刈り、気持ちの良い汗を流したのです。

作業前に行う自然観察

■どんどん広がる人の輪

 あれから3年余りがたちました。遊林会の活動は、口コミを中心に広がっていき、今では毎月第2土曜日には50人を超える参加者でにぎやかに活動を行っています。なかには、車で1時間以上もかけて京都から訪れ、服がどっぷりと濡れるまで汗を流してくれる夫婦や、作業はできないけども森の雰囲気や参加者との語らいを楽しみたいという80歳、90歳を超える高齢者、あるいは車いす利用者などの人々も参加しています。
 さらに、退職して時間に余裕のある参加者からは、「毎月1回では物足りないから、平日にも作業をしよう」という声があがり、現在では毎月第2土曜日と第4水曜日の2回を定例活動日としています。また、最近では学校での体験学習や、福祉面からの里山の活用などの面も加わり、森の利用者層はますます幅広くなってきているところです。

遊林会による里山保全活動の様子

■私たちにとってのパートナーシップ

 さて、本稿の標題通り、里山保全活動におけるパートナーシップは、繁りすぎた里山の「木を伐って森を守る」を合い言葉にした保全活動の実践を通じて、市民と行政、さらに企業ボランティアと大学・学校も加わって、着実に成果をあげてきているところです。
 しかし、実のところ「市民・行政・企業・学校とのパートナーシップ」などという、たいそうな構図を、現場で意識するようなことはまったくありません。現場では、どんな立場の人であれ、単純に「森好き・森での語らい好き」の男女ばかりなのです。そこには、河辺林を舞台とし、既存の生活圏域を超えた、全く新しいコミュニティが生まれているといっても良いと思います。
 私は、身近な自然である里山・河辺林が、そうしたコミュニティを醸成する力があるということに、最も着目したいと考えていますし、参加者がそれぞれの立場でそれぞれの力を発揮していくことが、活動の継続と質の維持に欠かせないことだと思っています。
 そして偶然にもその立場が、ある人は市民として、ある人は行政として、というように、どちらかといえば結果としてくっついてくる、それが、私たちのパートナーシップになっているように思います。
ところで私はと言えば、遊林会が活動を始めて9ヶ月後に初めて参加し、あまりに面白いので勤めていた会社を辞めて市役所に入り、現在では遊林会の一員として、また行政の一員として、河辺いきものの森の保全と遊林会活動に参加している者です。
 いずれは、森から生まれたコミュニティが、ますます醸成を重ね、他の森や自然の保全にまで活動範囲を広げていけるようになることを願っていますし、そうしていきたいと考えています。

■河辺いきものの森について

約15haの森林は、市が複数の地主から借り受け、保全整備を行っている。活動の拠点施設であるネイチャーセンターや地上12mの森の中を歩く林冠トレイルなどの施設があるが、基本的には森と散策路を主体とした里山である。現在も一部整備中で、全面開設は平成14年春の予定。一般利用だけでなく、学校等の体験学習、企業等の研修も随時受け入れている。


■遊林会について

定例活動への参加には申し込み不要、誰でも気軽に参加できる。通常、午前9時〜午後3時頃までだが、遅刻・早退可、作業内容も自分で選ぶなど、参加者の自主性を第一に考えている。「楽しくなければ続かない」を合い言葉に、昼時は薪で作った料理をみんなで楽しむ。住所・氏名をご連絡頂ければ、毎月の会報「河辺林通信」を無料で送付している。近々、NPO法人化の予定。

★問い合わせ先(河辺いきものの森、遊林会)
河辺いきものの森・ネイチャーセンター
〒527-0003 滋賀県八日市市建部北町531
TEL:0748-20-5211
FAX:0748-20-5210

『緑の読本』 特集:コミュニティ・デザインの現在 2001年10月臨時増刊号掲載

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